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物語の書き出し・クライマックス「のみ」を365本書いてみようという試み
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「歩美君、起きたまえ。起床時間だぞ」
 少女のショートカットの癖毛頭をつかんでわしわしと髪を揉んでいるのは、理知的な秀才君タイプの、眼鏡をかけた好青年である。ぱりっと糊とアイロンの効いたシャツに、黒い制服のズボンもきちんと折り目が付いていて、乱れたところはまるで無い。
 しかし、エプロンをかけているのはどうだろう? と言いたいところだが、調理をするには油や食品の飛沫が服に飛ぶのを防ぐ有効な服装であることを彼は認知しているので、着用しているに過ぎない。誰に見せるというわけでもないし。
 正確には、彼と同居している住人が一人だけいる。それが今、彼が起床させようと努力中の少女、宗寺歩美(そうじ・あゆみ)である。
「ふにゃあ……恭文(たかふみ)せんぱい、おはやぁございましゅぅ……」
 ようやく体を起こした少女は目をこすりつつ、ぽややんとした曖昧な笑みを浮かべた。
 まだ意識の半分以上は夢の中にあるようである。
「歩美君。君の魅力的な体を見るにやぶさかではないのだが、少々目の毒だ。きちんと起床して下着を着けた上で、制服を着たまえ」
「ん……やぁ! もう、先輩のえっちぃ!」
 ぷぅっとほっぺたを膨らませて右手を握りしめて、エプロン姿の青年をぽかぽかと殴る。手を動かすたびに、平均からすればやや小さ目かなと本人も気にしている素肌の胸が、ぷるんぷるんと震える。
「昨日は、先輩の方からえっちをしようって言ってきたんでしょぉ?」
「うむ。それは認める。認めるから、その……シャワーを浴びてきた方がいいと思う。そのまま学校に行くのは、衛生的にも問題があるように思えるのでね」
「先輩がだっこして、お風呂場まで連れてってくれると嬉しいんですけど? 昨日は三回もキモチよくなっちゃったし、体がくにゃくにゃなんです」
 などと上目遣いで見られると、恭文の態度も自然と柔らかくなる。なにしろ愛すべき伴侶なのだから、甘やかな雰囲気はあって当然。歓迎されるものである。
 この二人、宗寺恭文は十八歳。与党である正当自由主義民主政党(正自党)の若き官房長官を父に持つ、将来を嘱望された政治家の長男にして、朱林(しゅりん)高校の生徒会長。同じく宗寺歩美、十六歳。役付きではないが、クラスの世話役として皆に親しまれている。学校では旧姓の山斗(やまと)を名乗っているが、恭文とは法的にも正当なれっきとした夫婦なのだ。
 両親を亡くした歩美が、どうして恭文と結ばれることになったかは、とても長い話になる。かいつまんで話せば、彼女の祖父が宗寺家の危機を救ったことがあるからなのだが、もちろんそれだけが理由ではない。
「わかった、歩美君。時間もないことであるからな」
「……シャワー中に覗かないでくださいね」
「弁当の準備が終わっていない。中身を重複させないように作るのは大変なのだぞ?」
 学校では二人の関係を知っているのは、一部の教師と校長のみである。通学も時間をずらし、友達が来ても大丈夫なように、歩美用の専用にマンションの一室が用意されてまでいたりする。
 そこまでして夫婦である必要があるのは、もちろん深い理由がある。

 話は三年前にさかのぼる……。
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「お代わり!」
 居候、三杯目にはそっと出しなんてことわざは嘘だと健二は思った。
 正確には居候ではないのだが。
「おめー、食い過ぎ。もうジャーの中空っぽだぞ」
「健二の前に置いてあるの、ちょうだい」
「馬鹿言え。これは俺んだ」
 というよりも早く、言実(ことみ)の手が伸びて半分ほど残った茶碗のご飯を一呑みにした。

 ぎょっくん。

 恐るべき早食いである。実際、言実は大食いの上早食いなので、食費がかさんでたまらない。
「あー、美味しかった。おかわりまだある?」
「他人様の話はちゃんと聞きやがれでございますですよ?」
 箸を逆さまに持って、柄の方で言実の頭をぺちぺちと叩いた。
「やーん! ドメスティックバイオレンス、略してドスバ?」
「妙な略し方をするなよ」
 ご飯だけでは足りなかったらしく、執拗におかずを狙ってくる言実の箸を払いのけながら健二が言う。
「健二のケチ。夫婦でしょ、あたし達。夫婦はなんでも分け合うものよっ!」
「親が勝手にやったことだ。おまけに脅されてたしな。子供を犠牲にする奴がどこにいる」
「あら。あたしの両親は大賛成だったけど?」
「未成年同士だからな。両親の同意がなきゃ結婚でき……って、お前! 俺のチキンカツを!」
 隙を見て健二の皿からチキンカツの奪取に成功した言実が、一瞬のうちにカツを頬張って丸呑みした。

 ぎょりっ。

「ん~~~~~っ!!」
「馬鹿め、衣で喉を痛めたのか。ほれ、ぬるい茶があるからこれを飲め」
 自分の湯飲みを差し出してやる。言実は健二が口をつけて半分ほどになったお茶を一気に飲み干し――。

 ぶふっ!

 むせて、鼻から吹き出した。学校では清楚な美少女……というか美幼妻(という言葉があるかどうかは知らないが)として通っているのだが、実態はこれである。
「あーあ、もうしょうがねぇなぁ……」
 立ち上がって、けほけほとむせている言実の背中をさすってやる。
「飯は逃げないんだから、そんなにあわてるなよ」
「だって、だって、健二のご飯、美味しいんだもん。でもって、一杯食べたいんだもん」
 うるうるとした目で見られるとぐっとくるものがあるが、鼻水が出ていては百年の恋も冷めるというものだ。
 健二はティッシュで言実の顔を拭いてやり、ぎゅっと抱きしめてやった。
「わかったわかった。お前が食いたいだけ作ってやる。リクエストなんだ、ほら。言ってみろ」
 何にせよ実際に夫婦なのだし、やることもやっちゃってたりするので、半年前までのように手が触れあうだけで顔を真っ赤にさせるようなことにはならない。
(あー、俺も順応しちゃってんなぁ)
 とか健二が思うのも無理もない。

 山根健二、18歳。
 同・言実、16歳。

 これは高校生の身で結婚することとなったふたりの、血と汗と涙の記録である。

「あのね。バケツプリン、食べたいな。できればマンゴープリン」
「バケツかよっ!」
 まるでサウナだわ。
 瑞希は頭上五センチに浮かんだ脳味噌で考えた。
 普段なら黒板に集中しているはずの真面目な優等生である彼女ですらこうなのだから、同じ補習を受けているクラスメートの太月勇馬が、見るからにやる気がなさそうなのも無理はない。何しろ教師ですら、早く冷房の効いた職員室に戻りたいと願っているのが端から見ても明らかなのだから。
「よし。今日の補習はここまで」
「ありがとうございました」
「……っしたっ」
 午後二時二十分。
 終了まで十分を残しているが、この状況で続けたところで大して変わりはないだろう。それに、補習を受けているのはたった二人だけなのだ。
 外からは運動部員が出す声が、熱気と共に教室の中まで入ってくる。
「太月君。あなたはここに寝に来たの? それとも補習を受けに来たの?」
「うぇー……」
 揺り起こされた少年は覇気のない声でうめいた。
「あちぃ」
 瑞希は頬をつぅ、と伝って落ちそうになった汗をぬぐって彼の背中をばちん! と叩いた。
「鮎原」
「私だって暑いと思ってるわよ」
「ああ」
「ああって、あなた! なんでそんなにだらしない格好なの?」
 勇馬のワイシャツの胸元は半ばまでだらしなく広げられ、その下から素肌が覗いている。彼は下から瑞希を見上げ、ぼそりと言った。
「水色」
「はぁ?」
「いや、下着の色。下もそう?」
 反射的に瑞希は勇馬を椅子からたたき落としていた。
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