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物語の書き出し・クライマックス「のみ」を365本書いてみようという試み
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「今日のお機嫌はどうかでしょうね?」
 柔らかな言葉と共に、アーリールが部屋に入ってきた。
「まあまあかな」
「とは、いかがなのでしょう? 意味がわからないで不明なのでございましょう」
 俺は苦笑いして言った。
「悪くはないけど、最高でもない。普通ということだよ」
「ははあ。古代日本語は理解難しいのところでありやがりましょうねえ」
 アーリールは真面目な顔をして俺の言葉を聞く。
 アーリールは人間ではない。人造人間、いわゆるサイボーグというやつだ。生体と機械が見事に融合した、俺の目からすれば奇蹟のような機械工学の傑作だ。
 そのアーリールが俺の意識を呼び出して、この人工の肉体に宿したのだ。
 俺が生きていた時代からは、三千年あまりが過ぎている。
 地球からは多くの人間が宇宙へ飛び立ち、その後は地球とほとんど連絡をとることもないという。全滅したのか、それとも生活をするので精一杯なのか。
 現在の地球の正確な人口は不明だ。アーリールの説明によれば、三百万人を越えることはないだろうとのことだ。
 この研究所の近くにも都市はあるが、まるで日本とも思えない奇妙な文字が並ぶ、日本を勘違いして作った外国映画のような世界が広がっていた。言葉も、ところどころはなんとか推測が可能だが、もはやそれは日本語とは言えない変化をしていた。
 アーリールはもともと、人間の学者に従えていた。その助手だったらしい。
 だが、彼が死んで、アーリールは放逐された。
 そこでアーリールは、かつての師の研究――古代日本の文明研究を引き継いだというわけだ。
 文明が頂点に達したのは今から千二百年ほど前で、それからは衰退の一途をたどっているという。アーリールと同じサイボーグを作ることは可能だが、原理はもはやわからない。あと数百年もすれば、サイボーグ自体もこの世から消え去るだろうという。

 俺は死んだはずだった。
 何もかもに絶望し、林の中で首を吊ったのだ。
 息が詰まり苦しいと思う間もなく視界が急速に暗くなり、身体中の力が抜けた。なぜか一瞬、気持ちがいいとすら感じた。
 そして気がつくと、部屋の中で寝ていたのだ。
「お目がつきまして、おめでとうございました」
 アーリールの第一声はこれだった。
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 今年の夏も暑かった。
 多くの者が、照りつける太陽を恨んだ。あまりの暑さに外出する者も減り、海やプールに出かける客も減るまでにいたるとなれば、これは異常としか言いようがない。最高気温が日本各地で40度を越え、新記録を次々と塗り替えていった。

 その日も、また暑かった。
 今日一日にかく汗の量を考えるだけで憂鬱になりそうになる男の顔に、冷たい感触がした。
 何だろうと手を当ててみるが、何もない。
 気のせいかと歩き始めた彼に、今度は続け様に冷たい欠片が露出した肌に付着した。
「雪だ……」
 夏に雪が降る。ありえないことだ。
 真夏の晴天の中を、雪が舞っていた。

 そして――これが世界の「終わりの始まり」だった。

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